トマト

トマトの尻腐れ病は治る?カルシウム散布より先にやるべきこと

公開 2026.08.17菜園びより 編集部

尻腐れが出た実は治りません。ただし原因を直せば、これから実る分は正常に育ちます。

高知県の資料は「症状が発現した果実が回復することはない」と明記しており、対策として障害果をなるべく早く摘除することを挙げています。原因はカルシウム欠乏ですが、土のカルシウムが足りないケースばかりではありません。タキイ種苗は「多肥、高温環境下でカルシウムの果実への転流が悪くなり、発生する」としており、乾燥とチッソ過多で吸収と移動が妨げられているほうが多い。だからカルシウム剤を足す前に、水を切らさないことと追肥を止めることが先です。同社は葉面散布について「効果は認められるが、小さい」とも書いています。

まず結論|その実は治らない。やることは「次の実を守る」

ポイント

黒くなった実が元に戻ることはありません。やるべきは①その実を早めに摘み取る、②水を切らさない、③追肥を止める——の3つです。カルシウム剤の購入は、この後で構いません。

「トマトの尻腐れは治るのか」という問いへの答えは、残念ながらいいえです。高知県の技術情報は「症状が発現した果実が回復することはない」とはっきり書いており、対策として「障害果をなるべく早く摘除する」ことを挙げています。黒くなった部分が元の状態に戻ることはありません。

ただ、これは悲観する話ではありません。尻腐れは株全体の病気ではないので、原因を直せば、これから咲く花・これから膨らむ実は正常に育ちます。実際、下のほうの果房だけ尻腐れが出て、上のほうは何ともない、というのはよくある経過です。「今ある実を治す」から「次の実を守る」へ、頭を切り替えてください。

表1|尻腐れが出たときの対応(優先順)
優先やること理由費用
黒くなった実を摘み取る回復しない。つけたままだと株の負担になり、腐敗の起点にもなる0円
水を切らさない。乾湿の差を小さくする土壌の乾燥がカルシウムの吸収を妨げる。プランターは特に乾きやすい0円
追肥を止めるチッソ(とくにアンモニア態窒素)の過多がカルシウム吸収を抑える0円
葉を減らしすぎない。株の消耗を抑える高温環境下でカルシウムの果実への転流が悪くなる0円
必要ならカルシウムの葉面散布タキイ種苗は「効果は認められるが、小さい」としている。最後の手段資材費

そもそも「病気」ではありません|名前がまぎらわしい

ポイント

尻腐れは生理障害であって、病原菌による病気ではありません。他の株にうつりません。「尻腐れ病」という呼び方が広まっているせいで、必要のない心配や薬剤散布につながっています。

「尻腐れ病」と検索されることが多いのですが、これは病気ではなく生理障害です。タキイ種苗は「しりぐされ果は果実の頂端部にえそができる障害」と説明しており、原因は病原菌ではなく栄養と環境の問題です。したがって、隣の株にうつることはありませんし、殺菌剤も効きません。

この違いは実務的に大きな意味があります。病気だと思うと「広がる前に株ごと抜かなければ」と考えてしまいますが、その必要はまったくありません。逆に、原因が環境側にあるということは、同じプランターの他の実にも同じ条件がかかっているということでもあります。1個見つけたら、株の管理を見直す合図です。

なお、尻腐れはトマト特有のものではありません。タキイは「ナス、ピーマンでも同症状が発生するが、トマトが最も発生しやすい」としています。同じプランター群でナスやピーマンを育てていて、そちらにも似た症状が出ているなら、原因は共通している可能性があります。

表2|尻腐れと、まぎらわしい症状の見分け方
見た目何が起きているかうつるか対処の方向
お尻(果頂部)が水浸状になり、暗褐色に変わってへこむ尻腐れ果(生理障害)うつらない水を切らさない・チッソを減らす。この記事の内容
皮が裂けて中身が見えている裂果(生理障害)うつらない乾湿差を小さくする・葉を残す
日の当たる側だけ白く色が抜け、かたくなる日焼けによる傷みうつらない葉で日陰をつくる・遮熱
実や葉に斑点、輪紋、カビ状のものがある病気の可能性うつる傷んだ部分を除去し、風通しを改善する

ややこしいのが、尻腐れの実は早く赤くなることです。高知県の資料には「障害果は正常な果実よりも早く着色しやすい」とあります。「一番先に色づいたから収穫しよう」と手に取ったらお尻が真っ黒だった、という経験があるなら、これが理由です。裂果との見分けはミニトマトの実が割れる原因でも表にしています。

本当の原因|「カルシウムが足りない」ではなく「届いていない」

ポイント

土にカルシウムが十分あっても発生します。乾燥・チッソ過多・高温が、吸収と移動を妨げているケースのほうが多い。だから石灰を足すだけでは直らないことがあります。

尻腐れの原因はカルシウム欠乏です。ここまでは多くの記事に書かれています。問題はその先で、「カルシウムが欠乏している=土に足りない」と短絡すると対処を間違えます。高知県の資料は、カルシウムの吸収が抑制される要因として、土壌中の不足だけでなく「土壌の乾燥やアンモニア態窒素の過多」を挙げています。

なぜお尻から症状が出るのかにも理由があります。カルシウムは植物体内での再移動がほとんどできない栄養素です。一度どこかの組織に取り込まれると、そこから他へ移し替えることができません。そのため、いま盛んに育っている組織——生長点や、肥大している幼果の先端——にきちんと届かないと、そこだけ欠乏します。果実の先端が「お尻」にあたるので、そこから症状が出ます。

表3|カルシウムが実に届かなくなる要因
要因何が起きているかプランターでの起きやすさ
土壌の乾燥カルシウムは水に溶けて根から吸われ、水の流れに乗って運ばれる。土が乾くと吸収も移動も止まる高い。土の量が少なく乾きやすい
アンモニア態窒素の過多チッソ肥料が効きすぎるとカルシウムの吸収が抑えられる高い。規定量の元肥+追肥で効きすぎることがある
高温・多肥タキイ種苗「多肥、高温環境下でカルシウムの果実への転流が悪くなり、発生する」高い。夏のベランダは鉢内温度が上がりやすい
苦土(マグネシウム)などの過剰蓄積高知県「アンモニア態窒素やマグネシウム(苦土)などが過剰に蓄積していると、カルシウムの吸収が抑えられて欠乏症が発生しやすくなる」中。苦土石灰を入れすぎた場合など
ケイ素の不足タキイ種苗「ケイ素不足は発生を助長する」低〜中。あまり知られていない要因
土壌中のカルシウム自体の不足元肥の石灰質肥料が足りない中。培養土によっては調整済み

この表で言いたいのは、カルシウムが足りないケースは要因のひとつにすぎないということです。むしろ家庭菜園のプランター栽培では、上の2つ——乾燥とチッソ過多——のほうが圧倒的に多い。「カルシウム欠乏と聞いたので石灰をまきました」で改善しないのは、原因が別のところにあるからです。

カルシウム剤を買う前に知っておきたいこと

ポイント

タキイ種苗は葉面散布について「効果は認められるが、小さい」としています。効かないわけではありませんが、これ1本で解決する手段ではないという位置づけです。

尻腐れで検索すると、カルシウムの葉面散布剤やスプレーが数多く出てきます。「これをかければ止まる」という印象を受けるかもしれません。ただ、種苗メーカーの記述はもっと控えめです。タキイ種苗は診断と対策の項で、はっきり「カルシウムの葉面散布の効果は認められるが、小さい」と書いています。

理由は、先に説明したカルシウムの性質にあります。葉から吸収させても、カルシウムは体内で再移動しにくいので、葉に入ったぶんが実の先端まで届くとは限りません。だから「効かない」ではなく「効果はあるが小さい」という表現になります。使うなら、肥大中の幼果とその周囲の葉に直接かけるのが理にかなっています。

尻腐れを見つけて、すぐカルシウム剤を買いに行く

まず水やりと追肥を見直す。乾燥とチッソ過多が主因のことが多く、こちらは0円で直せる

「カルシウム不足だから」と石灰を大量に追加する

過剰施用は他の要素の吸収を妨げる。高知県も苦土などの過剰蓄積がカルシウム吸収を抑えると指摘している

病気だと思って殺菌剤をかける

生理障害なので薬剤は効かない。うつることもないので、株を抜く必要もない

黒くなった実を「まだ収穫できるかも」とつけたままにする

回復しないので早めに摘み取る。株の負担を減らし、腐敗の起点も断てる

元気がないように見えるので追肥を足す

逆効果になりやすい。タキイは「毎年草勢の強い畑や尻腐れ果が出るような所では、元肥の量を減らし初期の生育を抑える」としている

資材を使う場合、高知県の資料には「塩化カルシウムの0.2〜0.5%液を葉面散布する」という具体的な記載があります。市販の家庭菜園用カルシウム資材を使う場合は、必ず製品ラベルの希釈倍率と使用方法に従ってください。濃度を上げれば効くというものではなく、濃すぎれば葉を傷めます。

今日からやること|プランターでの具体的な管理

ポイント

乾かさない。効かせすぎない。この2つに尽きます。プランターは土が少なく、どちらも畑より振れやすいので、意識して整えます。

原因が分かったところで、具体的に何をするかです。難しいことはありません。順番に見ていきます。

  1. 1黒くなった実を摘み取る。回復しません。放置すると株の負担になり、腐敗や虫を呼びます。
  2. 2水を切らさない。土の表面が乾いたら与える、を守り、しおれるまで放置しない。乾かしてから一気に、が最も悪いパターンです。マルチング(株元を敷きわらやバークで覆う)で乾きを遅らせるのも有効です。
  3. 3追肥をいったん止める。とくに葉が濃い緑で茂りすぎているなら、チッソが効きすぎています。タキイは尻腐れ対策として「最初の追肥を早く施肥しすぎない」ことを挙げています。
  4. 4葉を減らしすぎない。高温下では転流が悪くなります。実に日陰をつくる葉は残して、鉢内と果実の温度上昇を抑えます。
  5. 5鉢内の温度を下げる。真夏のベランダは、コンクリートの照り返しで鉢が高温になります。すのこや台の上に置く、二重鉢にするなどで和らげられます。

タキイ種苗は尻腐れ果について、診断法・対策の欄で「高温、乾燥で発生が助長される」としています。つまり土を乾かさないことが対策の柱になります。そしてこれが効いてくるのが、株が大きくなって水を多く必要とし始める時期です。株が茂ってきたのに水やりの量が植え付け当初のままだと、実質的な水不足になります。株の成長に合わせて、水やりの量も増やしてください。

プランターや培養土そのものの選び方は道具・資材の選び方に、ベランダの日当たりや置き場所の条件は環境別の育て方にまとめています。

対策の効果はいつ出る?回復の見きわめ方

ポイント

すでに膨らんでいる実には間に合わないことがあります。効果が出るのは「これから咲く花」と「まだ小さい幼果」。判断は次の果房を見てください。

水やりを直して追肥も止めた。では、いつ結果が分かるのか。ここが分からないと、「効いていないのでは」と不安になって、また余計なことをしてしまいます。

手がかりは、これまで何度か出てきたカルシウムは体内で再移動しないという性質です。すでにある程度まで肥大した実は、その時点で取り込んだカルシウムしか持っていません。あとから根の吸収がよくなっても、その実に後から配り直すことはできない。だから、いま大きくなっている実の運命は、実質的にもう決まっています。

逆に言えば、これから咲く花と、まだ小さい幼果には間に合うということです。管理を立て直した効果は、そこに現れます。

表4|対策後に見るべきもの
対象間に合うかいつ分かるか
すでに黒くなっている実✗ 回復しない判断ずみ。摘み取る
同じ果房の、そこそこ大きくなっている実△ 間に合わないことが多い数日〜1週間。お尻に水浸状の変化が出るか見る
まだ小さい幼果◯ 間に合う可能性がある肥大が進むまでの1〜2週間
これから咲く花・次の果房◎ ここが本命開花から肥大まで2〜3週間。ここが正常なら対策は効いている

つまり、評価は2〜3週間後の「次の果房」で下すのが正しい見方です。対策した翌日に今ある実を見ても、何も分かりません。焦って別の手を打ち足すより、水やりを安定させたまま次の果房を待つほうが、結果的に早く収まります。

もうひとつ、尻腐れが増えるタイミングにも傾向があります。急に暑くなって土が乾きやすくなる時期と、株が大きくなって水の要求量が増える時期が重なると発生しやすい。梅雨明け前後に急に出始めた、というのは典型的なパターンです。天候が変わったら、水やりの量もそれに合わせて変える——これだけで防げることが少なくありません。

プランター栽培で尻腐れが出やすい理由

ポイント

土の量が少ないことがすべての元凶です。乾きやすく、肥料も効きやすく、温度も上がりやすい。畑と同じ感覚で管理すると、3つの要因が同時に悪化します。

「畑では出なかったのにプランターだと出る」という声はよく聞きます。これは腕の問題ではなく、容器の構造から来る必然です。土の量が限られていると、次の3つが同時に起こります。

  • 乾きやすい。畑は下から水が上がってきますが、プランターにはそれがありません。1日水をやり忘れただけで、カルシウムの吸収は止まります。
  • 肥料が効きすぎやすい。同じ量の肥料でも、土が少なければ濃度は高くなります。規定量を入れたつもりが、チッソ過多になっていることがあります。
  • 温度が上がりやすい。夏のベランダでは鉢内温度が上がり、タキイの言う「高温環境下でカルシウムの果実への転流が悪くなる」条件に入ります。

対策として現実的なのは、できるだけ大きな容器を使うことです。トマトのように大きく育つ野菜を小さなプランターで育てると、上の3つが極端に出ます。次に育てるときは、深さと容量に余裕のあるものを選んでください。土の量が増えるだけで、水も肥料も温度も安定します。

葉のほうに異変が出ている場合は、原因が重なっていることがあります。トマトの葉が丸まる原因では、水不足・高温・肥料過多・病気の切り分け方を解説しています。尻腐れとあわせて確認してみてください。

来季の予防|植え付け前に決まる部分が大きい

ポイント

尻腐れ対策の半分は植え付け前に終わっています。石灰質資材は植え付けの2週間前までに、元肥は控えめに。この2点で来季の発生はかなり減ります。

シーズン中にできることをやりきったうえで、来季は準備の段階から手を打てます。高知県の資料は対策として「土壌診断に基づく適正施肥」「土壌pHを測定し、pHが低い場合には石灰質資材を施用」を挙げています。家庭菜園でここまでやるのは大変なので、現実的な形に翻訳します。

表5|来季に向けた準備
タイミングやることねらい
植え付けの2週間前まで苦土石灰などの石灰質資材を土に混ぜるカルシウムを事前に補給する。直前だと間に合わない
植え付け時元肥は控えめに。市販の培養土なら追加の元肥は不要なことが多い初期のチッソ過多を避ける。タキイは「元肥の量を減らし初期の生育を抑える」としている
容器選び深さと容量に余裕のあるものを選ぶ乾燥・肥料濃度・温度の3つを同時に安定させる
第1〜2果房のころ追肥を急がない。株の様子を見てから「最初の追肥を早く施肥しすぎない」(タキイ)
株が茂って水の要求量が増えたら水やりの量を株の大きさに合わせて増やす土を乾かさない。タキイ種苗は「高温、乾燥で発生が助長される」としている

石灰質資材を「植え付けの2週間前まで」に入れるのは、土になじませる時間が必要だからです。植え付け直前に混ぜても効きませんし、種類によっては根を傷めることもあります。カレンダーに先に書いておくのが確実です。植え付け時期そのものは植え時・月別作業で確認できます。

よくある質問

尻腐れの部分を切り落とせば、残りは食べられますか?

黒く変色してへこんだ部分を取り除けば、残りの部分は食べられます。生理障害であって病原菌によるものではないため、毒性の心配はありません。ただし、変色部から腐敗が進んでいたり、カビが出ていたり、異臭がする場合は食べずに処分してください。判断に迷うようなら無理をしないでください。なお、株につけたまま放置すると腐敗が進むので、食べるかどうかにかかわらず早めに摘み取ります。

石灰をまいたのに、また尻腐れが出ます。なぜですか?

原因が土のカルシウム不足ではない可能性が高いです。高知県の資料は、土壌中のカルシウム不足だけでなく「土壌の乾燥やアンモニア態窒素の過多」がカルシウムの吸収を抑制すると説明しています。乾燥とチッソ過多を直さないかぎり、石灰を足しても実には届きません。まず水やりを安定させ、追肥を止めて様子を見てください。また、石灰の過剰施用は他の要素の吸収を妨げるため、足し続けるのは逆効果です。

尻腐れは他の株にうつりますか?株を抜いたほうがいいですか?

うつりません。抜く必要もありません。尻腐れは病原菌による病気ではなく生理障害だからです。ただし、原因が環境側にあるということは、同じ条件で育てている他の株にも同じことが起こり得るということです。1株で見つかったら、他の株の水やりと施肥も見直してください。なお、トマトのほかナスやピーマンでも同じ症状が出ることがあります。

カルシウムのスプレーは買ったほうがいいですか?

急いで買う必要はありません。タキイ種苗は「カルシウムの葉面散布の効果は認められるが、小さい」としています。カルシウムは植物体内で再移動しにくいため、葉から入ったぶんが実の先端まで届くとは限らないからです。まず0円でできる対策(実の摘み取り・水を切らさない・追肥を止める)を実行し、それでも改善しない場合の追加手段として検討してください。使う場合は肥大中の幼果とその周囲の葉にかけ、製品ラベルの希釈倍率を必ず守ってください。

下のほうの実だけ尻腐れになりました。上の実も同じようになりますか?

必ずしもそうはなりません。株が大きくなって水と養分を多く必要とし始める時期に発生しやすく、この時期に管理を立て直せば、上の果房は正常に育つことが多いです。逆に、水やりの量を植え付け当初のままにしていると、株が大きくなるほど実質的な水不足になり、発生が続きます。株の成長に合わせて水やりの量を増やしてください。

参考・出典

病害虫の防除に農薬を使う場合は、その作物への登録がある薬剤を、ラベルに記載された希釈倍数・使用時期・使用回数の範囲で使ってください。 栽培環境(地域・天候・品種・容器の大きさ)によって症状の出方は変わります。判断に迷う場合は、お住まいの都道府県の病害虫防除所や普及指導センターにご相談ください。

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