狭いベランダの菜園|面積より先に「手すり壁の影」を計算する
狭いベランダで野菜が育たない原因は、面積ではなく「床に日が当たっていないこと」です。
建築基準法施行令第126条は、2階以上のバルコニーの周囲に「安全上必要な高さが一・一メートル以上の手すり壁、さく又は金網」を設けることを義務づけています。この壁が光を通さない場合、太陽が低い季節には床に長い影ができます。本記事の計算では、東京(北緯35.7度)の冬至の南中高度は30.9度で、1.1mの壁が作る影は約1.84mになります(真南向き・障害物なしとした場合)。奥行きがこれ以下のベランダでは、南中時でも床に直射日光が届かない計算です。実際は向きや周囲の建物で変わるので、確かめ方は4章にまとめました。やるべきことは、プランターを減らすことではなく、使える面積を正しく出したうえで、置く高さを上げることです。
結論|「狭い」の正体は2つある
狭さの問題は、①置ける面積が思ったより少ない ②床に日が当たらないの2つに分けられます。対処法が別なので、混ぜないでください。
「狭いベランダ 菜園」で調べると、出てくるのはほとんどが見せ方の工夫です。縦の空間を使う、棚を置く、室外機の上を使う、色を揃えておしゃれに見せる。どれも間違ってはいませんが、なぜそうするとうまくいくのかが書かれていません。そのため、棚を買っても状況が変わらない、ということが起きます。
順番が大事です。先に②を確認してください。なお②がどの程度効くかは、ベランダの向き・奥行き・手すりの材質で変わります(3章・6章)。日が当たらない場所にどれだけきれいに並べても結果は変わりませんが、日が当たる場所さえ確保できれば、プランターが1つでも収穫はできます。
まず「使える面積」を出す|引き算で求める
ベランダの実測面積は、そのまま使えません。避難設備・動線・設備を引いた残りが、実際に置ける面積です。
「うちのベランダは狭いから」と言うとき、多くの人は実測していません。そして実測しても、その全部が使えるわけではありません。次の順に引いてください。
| 引くもの | 考え方 | 備考 |
|---|---|---|
| 避難ハッチの上 | 床にある四角い金属のフタ。上には何も置かない | 軽いものでも置かない。非常時にすぐ開けられることに意味があります |
| 隔て板(蹴破り板)の前 | 隣戸との境の板。前をふさがない | 板の幅ぶんを丸ごと空けます |
| 人が通る幅 | 洗濯物を干す・掃除する動線 | ここを削ると、結局プランターをどかすことになります |
| 室外機の前と周囲 | 吹き出し口をふさがない | 熱風が当たる位置は、面積があっても栽培に向きません |
| 排水溝の上と経路 | 水の流れる筋をふさがない | 土や落ち葉が詰まると、階下への漏水の原因になります |
引き算が終わると、たいてい「思っていたより狭い」という結果になります。ここで落胆する必要はありません。プランター1つは幅65cm×奥行22cmでおよそ0.14㎡です。残った面積が0.3㎡でも、2つは置けます。次に確認すべきは、その場所に日が当たるかどうかです。
なぜ狭いベランダは暗いのか|1.1mの手すり壁が作る影
建築基準法が手すりの高さを1.1m以上と定めているため、太陽が低い季節には、床に1m以上の影ができます。
ベランダの手すりの高さには法令の下限があります。建築基準法施行令第126条第1項は、こう定めています。
つまりあなたのベランダの手すりは、最低でも1.1mあります。そして、それがコンクリートなどの光を通さない「手すり壁」である場合、太陽の高さによって床に影ができます。影の長さは三角比で決まります。
| 時期 | 太陽の南中高度 | 床にできる影の長さ | 意味 |
|---|---|---|---|
| 夏至(6月) | 77.7度 | 約0.24m | 床のほぼ全面に日が当たる |
| 春分・秋分(3月・9月) | 54.3度 | 約0.79m | 壁から80cmは日陰。奥行1.2mなら残り40cm |
| 冬至(12月) | 30.9度 | 約1.84m | 奥行1.8m以下のベランダは、床全面が日陰 |
この表がはっきりさせるのは、「狭い=日当たりが悪い」ではなく「奥行きが浅い+壁が高い=床に日が当たらない」という因果です。奥行きが浅いこと自体は、影より外に出られないという意味で不利に働きます。そして冬に向かうほど不利が拡大します。「夏はよく育ったのに、秋から急にうまくいかなくなった」という経験には、この理由があります。
自分のベランダの数字を出す3ステップ
上の表は東京の値です。緯度が上がるほど影は長くなります。自分の地域の数字は公的なサイトで確認できます。
地域ごとの一覧を並べても、住んでいる場所と向きが違えば当てになりません。自分で出せる手順を渡します。
- 1ベランダの奥行きを測る。建物の壁から手すりの内側までの距離です。同時に手すりの高さも測ってください(1.1m以上のはずです)。
- 2自分の地域の南中高度を調べる。国立天文台の暦計算室「日出没・南中高度」で、地点と日付を指定すると太陽の南中高度が分かります。知りたいのは冬(12月下旬)の値です。いちばん条件が厳しい日で判断します。
- 3影の長さを計算する。「手すりの高さ ÷ tan(南中高度)」です。関数電卓やスマホの電卓(横向きにすると tan が出ます)で計算できます。この値が奥行きより長ければ、真冬の床には直射日光が届きません。
参考までに、同じ1.1mの壁でも札幌(北緯43.1度)の冬至は南中高度23.5度で影は約2.53m、那覇(北緯26.2度)は40.4度で約1.29mと、本記事の計算では倍近い差になります。北にいくほど、冬のベランダ栽培は床では成立しにくくなるということです。
だから「上に置く」が効く|棚は日照を買う道具
縦の空間を使うのは、省スペースのためではなく、影から抜け出すためです。数字で見ると効果がはっきりします。
競合記事はどれも「狭いベランダは縦の空間を使いましょう」と書いています。正しいのですが、理由が「置ける数が増えるから」「立体感が出ておしゃれだから」になっている。本当の効果は日照です。
手すり壁の高さが1.1mなら、植物を高さhの位置に置いたときに影から出る距離は「(1.1 − h) ÷ tan(南中高度)」になります。東京の冬至(30.9度)で計算すると、次のようになります。
| 置く高さ | 壁からこの距離より先に日が当たる | 奥行1.2mのベランダでは |
|---|---|---|
| 床に直置き(0cm) | 1.84m | 床には当たらない |
| 30cm(低いすのこ・台) | 1.34m | 当たらない |
| 60cm(低めの棚) | 0.84m | 奥の36cm分に日が当たる |
| 90cm(腰高の棚) | 0.33m | ほぼ全面に日が当たる |
| 110cm(手すりの高さ) | 0m | 全面に当たる |
60cmの棚を1つ入れるだけで、真冬に日が当たらなかった場所が日なたになります。これは面積を増やしたのではなく、影の外に出たということです。狭いベランダで棚が効くのは、この理由によります。
❌省スペースのために、棚の下の段にプランターを詰め込む
⭕下の段は日照的にいちばん不利。培養土の予備や道具置き場にして、植物は上の段に置く
❌背の高い野菜を手前に、低い野菜を奥に置く
⭕奥(建物側)ほど影が深いので、背の高いものを奥に。手前に低いものを置くと、両方に光が回ります
❌とにかく高い棚を買って、いちばん上に重いプランターを載せる
⭕高くするほど転倒と荷重のリスクが上がります。重さの考え方はベランダ菜園に必要なものリスト、風対策は台風のプランター対策へ
手すりが「壁」か「格子」かで、話はまったく変わる
施行令第126条が認めているのは「手すり壁、さく又は金網」の3種類。光を通すタイプなら、影の問題はほぼありません。
ここまでの計算は、すべて手すりが光を通さない壁であることを前提にしています。しかし条文が定めているのは「手すり壁、さく又は金網」で、すき間のある形状も認められています。自分のベランダがどちらかで、対策は変わります。
| 手すりの種類 | 光の通り方 | 影の問題 | 優先すべき対策 |
|---|---|---|---|
| コンクリート・パネルの壁 | 通さない | 大きい(表3のとおり) | 棚で高さを上げる |
| 金属の柵・格子・金網 | かなり通る | 小さい | 面積の配分と風対策を優先 |
| すりガラス・半透明パネル | 拡散して通る | 中程度 | 実測で確認するのが確実 |
| 壁+上部が格子の複合型 | 壁の高さぶんだけ影ができる | 壁部分の高さで計算する | 壁の高さを測って表4に当てはめる |
測るべきは「手すり全体の高さ」ではなく「光を通さない部分の高さ」です。下半分がコンクリートで上半分が格子、という複合型は多く、その場合はコンクリート部分の高さを表4に当てはめてください。1.1mより低ければ、影もそのぶん短くなります。
狭いベランダで避けたい置き方
限られた面積では、1つの置き間違いが全体に響きます。よくある4つを挙げます。
❌室外機の前が空いているので、そこにプランターを置く
⭕吹き出し口の前は避ける。熱風と乾燥で株が傷みます。室外機の上を使う場合は、専用ラックで機器に荷重をかけない形にする
❌壁際(建物側)にプランターを寄せて、通路を手すり側に取る
⭕逆にする。壁際は影がいちばん深い場所です。日が当たる手すり寄りに植物、壁際を通路や道具置き場に
❌プランターを床に直置きして並べる
⭕すのこや台で少し浮かせる。夏のコンクリートの高温が根に伝わりにくくなり、排水も安定します
❌数を増やすために、小さい鉢をたくさん置く
⭕小さい鉢ほど乾きが早く、狭いベランダでは管理が破綻します。数を減らして容量の大きいものにするほうが、水やりの失敗が減ります(プランターのサイズの選び方)
最後の項目は、狭いベランダで特に効きます。面積が限られると「小さい鉢をたくさん」に向かいがちですが、土の量が少ないほど乾燥が早く、真夏は1日2回の水やりが必要になることもあります。狭いからこそ、鉢の数を絞って容量を確保するほうが続きます。
狭さを前提にした野菜の選び方
面積が限られるときは、「背が低い・浅くて済む・続けて採れる」の3つで絞ると失敗しません。
狭いベランダでは、野菜選びの基準が広い場所とは変わります。ポイントは3つです。
| 条件 | なぜ狭いベランダで効くのか |
|---|---|
| 背が低い | 隣のプランターに影を作らない。面積が狭いほど、株どうしの影の奪い合いが起きます |
| 浅いプランターで足りる | 土が少なくて済む=軽い。棚に載せる前提なら、重さは直接の制約になります |
| 続けて採れる(摘みとり型) | 株数を増やせないぶん、1株あたりの収穫回数で稼ぐ。抜き取り型は1回で終わってしまいます |
この3条件は、そのまま「初心者に易しい条件」とも重なります。何を育てるかの選び方はプランターで初心者に簡単な野菜で、発芽のしやすさや収穫までの日数を含めて5条件に分解しています。今の時期から始める場合のまき時の締め切りは秋植え野菜のプランター栽培をご覧ください。
そして、ここまでの話をひと言でまとめるとこうなります。狭いベランダで最初にやるのは、プランターを買うことでも棚を買うことでもなく、「奥行き」と「光を通さない手すりの高さ」をメジャーで測ることです。その2つの数字が、置ける場所と置くべき高さを決めます。
よくある質問
奥行き60cmしかありません。それでも家庭菜園はできますか?▾
できますが、床置きは冬に厳しくなります。本記事の計算では、東京の冬至に1.1mの手すり壁が作る影は約1.84mなので、奥行60cmの床は真冬の南中時でも全面が日陰になります。対策は高さです。表4のとおり、東京・冬至なら90cmの高さに置けば壁から33cmより先に日が当たる計算になり、奥行60cmでも日なたを確保できます。幅65cmのプランター1つは奥行22cm程度なので、細長い棚を1つ置く構成が現実的です。ただし高くするほど風の影響を受けるので、台風のプランター対策も確認してください。
北向きのベランダですが、あきらめるべきですか?▾
直射日光が入らない前提で、期待値を調整すれば栽培自体は可能です。北向きでは南中時に正面から日が入らないため、本記事の計算(真南向きが前提)はそのまま当てはまりません。まず実測してください。晴れた日に朝・昼・夕とベランダに出て、床や手すりのどこに日が当たるかを見ます。反射光だけでも育つ野菜はありますが、実をつける果菜類は難しくなります。日当たりが限られる環境での野菜選びは環境別の育て方にまとめています。
手すりに引っ掛けるタイプのプランターは、狭いベランダに向いていますか?▾
日照の面では有利ですが、注意点が2つあります。手すりの高さに置けるので、本記事の表4でいえば影から完全に抜けられます。ただし①落下のリスク(外側に張り出す形は避け、内側に掛ける)と、②管理規約です。外観に関わる設置や、外側への張り出しを禁じている管理規約は珍しくありません。設置前に管理規約・使用細則を確認してください。避難経路や共用部分の考え方はベランダ菜園に必要なものリストで扱っています。
棚を置くと、下の段は完全に無駄になりますか?▾
栽培には不利ですが、無駄にはなりません。下の段は日照が最も届きにくい場所なので、培養土の予備、じょうろ、道具、支柱、防虫ネットなどの置き場にすると、狭いベランダで散らかりがちなものが片づきます。どうしても植物を置くなら、日照要求の低いものや、育苗中の小さいポット(発芽前は光をあまり必要としません)が向きます。「下の段には植物を置かない」と決めてしまうほうが、結果的に上の段の管理が丁寧になります。
夏はよく育ったのに、秋から急に元気がなくなりました。原因は何ですか?▾
日照の減り方が、気温の下がり方より急である可能性があります。本記事の計算では、東京の1.1mの手すり壁が作る影は夏至で約0.24m、秋分で約0.79m、冬至で約1.84mと伸びていきます。つまり9月から12月にかけて、床の日なたは急速に失われます。気温だけを見ていると「まだ暖かいのに、なぜ」と感じますが、床に届く光は先に減っています。対処は棚などで高さを上げることです(5章)。あわせて、秋冬に向く野菜への切り替えは秋植え野菜のプランター栽培をご覧ください。
参考・出典
- ・e-Gov法令検索|建築基準法施行令 第126条第1項(屋上広場等。バルコニーの周囲には1.1m以上の手すり壁、さく又は金網)
- ・e-Gov法令検索|建築基準法施行令 第85条(積載荷重。屋上広場又はバルコニーは住宅の居室と同じ扱い)
- ・国立天文台 暦計算室|各地の日出没・南中高度(地点と日付を指定して太陽の南中高度を調べられる)
病害虫の防除に農薬を使う場合は、その作物への登録がある薬剤を、ラベルに記載された希釈倍数・使用時期・使用回数の範囲で使ってください。 栽培環境(地域・天候・品種・容器の大きさ)によって症状の出方は変わります。判断に迷う場合は、お住まいの都道府県の病害虫防除所や普及指導センターにご相談ください。
